公的病院、名指しで再編検討指示

日本には2017年時点で1652の公立・公的病院があるそうです。

一方で医療には「不採算部門」と呼ばれる科があります。かつては産科、小児科、救急などがその代表とされており、現在でもその傾向は変わらないようです。では不採算部門が不要かといえば決してそんなことはありません。産科や小児科がなくなれば、我が国の周産期医療、小児科医療は成り立ちませんし、救急がなくなれば、夜間・休日に体調を崩したときにどうすることもできなくなってしまいます。

公的病院はこれらの不採算部門を担うという重要な役割を持っています。あるいは公的病院以外に周囲に大きな病院がないという地域もたくさんあるでしょう。

そんな現状で厚生労働省が驚くべき通知を出してきました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50232120W9A920C1MM8000/

厚生労働省は26日、市町村などが運営する公立病院と日本赤十字社などが運営する公的病院の25%超にあたる全国424の病院について「再編統合について特に議論が必要」とする分析をまとめ、病院名を公表した。診療実績が少なく、非効率な医療を招いているためだ。ベッド数や診療機能の縮小なども含む再編を地域で検討し、2020年9月までに対応策を決めるよう求めた。 (後略、令和元年9月26日の日本経済新聞より)

上記通知について、「非効率な病院なら再編も仕方ない」「国の財政が大変で人口も減っていくのだから仕方ない」などの意見も聞こえてきそうですが、大きな問題のある通知です。今回なにが問題なのかを列挙したいと思います。

診療実績の基準について

今回のデータにおける診療実績とは、がん、心疾患、脳卒中、救急、小児、周産期、災害、へき地、研修・派遣機能の9つの分野について評価されたそうです。裏を返せば、これら以外の分野でいくらがんばっていても実績になりません。リハビリを頑張っている病院、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病、透析、呼吸器、精神科などを頑張っている病院は数多くありますが、これらは評価されない仕組みになっています。

上で述べた9つの分野が医療のすべてではないのに、その基準で医療機関を切り捨てるのは暴論もいいところです。

名指しで列挙しそれを公開する必要があったのか

今回の通知は地域住民の不安を煽り、病院の風評被害につながりかねないものです。

また、地方の病院の多くは、医師確保について大学病院からの人材派遣で成り立っていますが、 この通知はおそらくそれにも影響するでしょう。大学から派遣される医師が減ってしまい、診療実績を積み上げられなくなる悪循環に入ってしまう可能性があります。

そもそも情報が古い

今回のデータは2017年の診療実績が集められています。たった2年と思われるかもしれませんが、現場の声として、この2年で効率性を考えて急性期病床を減らした病院もありますし、頑張って診療実績を積み上げた病院もあるようです。それらを一緒くたにして列挙することは、現場の努力を無視した暴挙だと思います。

無駄を削って本当に大丈夫?

病院は災害など非常時に重要な役割を担います。災害時にはけがをする人もいますし、ストレスから持病が悪化する人もいます。病院のスタッフは普段以上に働くことになりますが、日常診療でいっぱいいっぱいでやっている場合には、それ以上の余力を出すことができません。無駄を削るということは、余力を削るということになります。非常時の医療を成り立たせるには、一見無駄に見えることでも残しておくことが大事です。

災害が増えてきている今日、次に被災するのはあなたかもしれません。その際に助けてくれるのは平時に一定の余力を残した人だけです。被災しても誰も助けてくれない世の中は怖すぎませんか?

また「非効率だから効率化すること」と、「非効率だからゼロにすること」は異なります。効率化という観点も完全に否定まではしませんが、今回の通知は病床削減を狙ったものなので、ある特定の地域の病院をゼロにすることも視野に入れています。その場合は地域の住民も困りますし、近隣の医療機関にもしわ寄せがいくことになります。

 

今回の厚生労働省の暴挙を受けてどのような形で議論が進んでいくのか、見守ることしかできませんが、反対すべきことには反対の声を上げていきたいと思います。

今回の記事は以上です。