医療関係の報道について

マスコミの医療報道について思うところはたくさんあるのですが、今日はこの記事を取り上げたいと思います。

 

病院側、請求棄却求める 誤診で副腎摘出、旭川地裁

https://mainichi.jp/articles/20190925/ddl/k01/040/068000c

 健康な左副腎に疾患があると誤診され手術で摘出されたとして、札幌市の女子大生(24)と母親が、旭川赤十字病院旭川市)の男性医師と病院を経営する日本赤十字社(東京都港区)に、計約6300万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が24日、旭川地裁(湯川克彦裁判長)で開かれ、病院側は請求棄却を求めた。

 

副腎腫瘍にはいろいろな種類がありますが、その中でアルドステロン産生腺腫は非常に診断が難しいです。一般的な副腎腫瘍であれば、CTやMRIで存在診断を行うことができますが、アルドステロン産生腺腫は小さいサイズのことが多く、CTやMRIでは写ってこないこともあります。また画像検査で腫瘍があったとしても、非機能性腺腫といわれる病的意義の少ない腫瘍もあり、その場合は摘出の必要性が乏しいです。

アルドステロン産生腺腫の診断のためには副腎静脈サンプリングという手法が取られます。カテーテルを用いて左右の副腎静脈から採血を行い、副腎から産生されるアルドステロンの血中濃度を測定し、画像では写ってこないようなアルドステロン産生腫瘍の存在を間接的に調べる方法です。

 

今回の事例について詳細ははっきりしません。実際、病名すら記事には書いていないというお粗末さです。以下に述べることはあくまで現時点の記事から読める推測であり、事実関係が確かめられたものではないことをあらかじめご承知おきください。

おそらくアルドステロン産生腺腫が疑われる症状のある患者さんだったのでしょう。CTないしMRIでは右の副腎に腫瘍があったのですが、副腎静脈サンプリングからは左副腎静脈血のアルドステロン濃度が高く、左の副腎に小さなアルドステロン産生腫瘍があることが示唆されたのだと思います。画像検査と副腎静脈サンプリングのどちらを信用するかは悩ましいのですが、データ上は副腎静脈サンプリングのほうが有効な検査であるようです。この場合は、右副腎にアルドステロン産生腺腫がある可能性も十分に説明した上で、左副腎の摘出手術をするかどうか決定することになり、今回は左副腎の摘出することに同意したのでしょう(説明内容については病院側が主張している内容です)。

残念ながら摘出した左副腎を顕微鏡で確認してもアルドステロン産生腺腫は見つからず、症状も改善しなかったという結果だったのだと推察します。患者さんにとっては気の毒な結果だったことは間違いありません。

今回の焦点は、記事によればサンプリングに左右のミスがあったかどうかであるようです。そうであれば病院側の責任はあるでしょうし、逆にサンプリングにミスがなかったのであれば病院の責任を問うことは難しいように思われます。重要なのは結果ではなく、診断から手術に至った経緯がその時点での医療水準を満たしているかどうかです。

 

マスコミの情報は医療者から見たら重要な情報が入っていないことが多く、我々としては常日頃もやもやした気持ちで記事を読んでいます。医療者から見て重要な情報もぜひ入れていただけないかなと思う次第です。マスコミの皆さんよろしくお願いします。