医療費に消費税がかからないという問題

医療費には消費税がかかりません。厳密には健康保険の適応の範囲内の診療については非課税、保険適応を超えるものについては課税となっています。

医療を受ける側としては嬉しいことかもしれませんね。しかし医療機関側としては非常に大きな問題となります。そして実は患者さん側も損をしている部分があるのです。今回はそれについてまとめてみます。

参考資料は日本医師会パンフレット(下記pdf)です。

http://dl.med.or.jp/dl-med/doctor/report/zeisei/pamphlet2.pdf

なぜ医療費は消費税非課税か

1989(平成元)年に消費税が導入されました。正直なところその際に医療費も消費税課税対象にしてしまえば何も問題なかったと思います。しかし実際には「国民からの理解が得られない」として、社会政策的な配慮から非課税となってしまいました。その代わりに、診療報酬に少し上乗せするという形になっています。1989(平成元)年に3%の消費税が導入された際には0.76%、1997(平成9)年に3%から5%に引き上げられた際には0.77%の上乗せがありました。

何が問題なの?

医療機関が医療を提供する上では様々なものを仕入れる必要があります。例えば薬、手術器具、CTやMRIなどの医療機器などです。もっと大規模なものとしては建物のような設備投資も医療を提供するために必要なものです。これらには仕入れの際にも消費税がかかるため、医療機関仕入れ先に納めています。医療費のうち健康保険の適応となるものはすべて公定価格であり、医療機関が自由に設定することができません。消費税による負担増を自由に価格に転嫁することができないのです。

一方で、一般のお店で何かを買うときに消費税は我々が負担していますが、実際に税務署にその税を納めるのはお店側です。お店側は消費税を税務署に納める際に、「仕入れにかかった分の消費税」を差し引いて納税することになります。これを仕入税額控除といいます。

簡単な例をお示しします。ある商品の仕入れには600円+消費税48円がかかり、その商品を税抜き価格1000円+消費税80円で販売したとします。その場合にお店が税務署に納める消費税は80円ではなく、80円-48円で32円です。仕入れにかかった分の消費税48円は控除されるので、税務署に払う必要はありません。粗利益は1080-648-32=400円になります。

ところが医療費は非課税であり、消費税を税務署に納めるという手続きがありません。必然的に仕入税額控除を使うことができません。同様の例で、仕入れに600円+消費税48円、医療費1000円という形を考えてみます。その場合には控除がないので医療機関仕入れにかかった消費税分を負担せざるを得ない仕組みになっています。粗利益は単純計算で1000-600-48=352円です。実際には医療には消費税分が一定の割合で加算されているので、ここまで損は大きくないのかもしれません。実際に前回の5%から8%への消費税アップの際には診療報酬が消費税アップ分として1.36%増えました。しかし1.36%で十分だったかどうかという点について問題も出ています。

http://www.watakyu.jp/archives/6435

上記の記事では5%から8%への消費税増税の際に行われた診療報酬改定で、医療機関への十分な補填が行われたかったことを指摘しています。すべての医療機関が均等に1.36%の補填分を享受できるならいいですが、多くの場合は不平等になってしまいます。

一方で、患者さん側から見たときのデメリットをお伝えします。それはどれくらいの税負担をしているのかがわかりにくくなってしまう点です。これまで単純計算で0.76%+0.77%+1.36%=2.89%が診療報酬に上乗せされてきました。しかし実際に払っている医療費の中でどれくらい税負担があるのかが不透明になってしまいます。

対策の提案

輸出企業の場合、外国に販売した分は消費税がかからないので、輸出戻し税という制度があります。外国への販売分の仕入れに対する消費税は、政府からの還付金という形で返ってくる制度です。

現在の医療費のように、診療報酬に加算するいびつな形ではなく、輸出戻し税と同様に「医療費戻し税」のような形で仕入れ分の所得税を還付すればいいのではないでしょうか。「そんなお金はない」という財務省の声が聞こえてきそうですが、そこについては問題ないと考えています。またいずれ取り上げたいと思います。