日本の科学研究の危機②

前回、運営費交付金が減っていることを取り上げましたが、日本の科学技術予算の総額が減っているわけでありません。

前回記事はこちらです。

hopeforthebest.hatenablog.com

 

問題はまた別のところにあるので、今回そこを取り上げます。

日本の研究開発費総額の推移

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https://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/tech_research/aohon/a17_3_1.pdfより)

研究開発費の総額はおよそ17~19兆円前後で推移しています。対GDP比は3.5%前後です。グラフは割愛しますが、これは諸外国と比べて特別低いものではありません。これらの中には民間研究機関のものと公的研究機関のものが含まれます。民間研究機関はほとんどが自己負担で研究費を捻出しており、公的研究機関はほとんどが政府負担です。民間研究機関は利益を追求することが目的であるのに対して、公的研究機関は基本的に利益を追求することを目的としていないという点が大きな違いです。ちなみに民間のトップ3は2016年のデータで、トヨタ、ホンダ、日産となっています。さすが日本の誇るべき自動車産業ですね。

ちなみに2014年4月以降は5%から8%への消費税増税のため、実質で考えれば3%程度減少していることになりますが、ややこしくなるので今回は名目の額で考えます。

日本政府の科学技術関係予算について

では政府負担の推移はどうなっているのでしょうか。

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https://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/tech_research/aohon/a17_3_1.pdfより)

補正予算地方公共団体分を除いて考えると、政府の支出を極端に減らしているということではないようです。

では他の国との比較ではどうでしょうか。経済規模が各国でまちまちなので、GDPと比較したものが以下になります。

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https://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/tech_research/aohon/a17_3_1.pdfより)

日本は残念なことに少ないですね。中国、イギリスよりは多いですが、OECD平均を下回っています。中国はGDPの伸びが凄まじいので、中国より多いとも言い切れないように思います。

次に、政府負担割合がどうなっているかという点が下記です。

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https://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/tech_research/aohon/a17_3_1.pdfより)

多くの国が、政府負担20%以上を占めているのに対して、日本は15%程度となっています。支出の対GDP比率だけでなく、全体に占める政府の割合も少ないようです。民間が補っている形ですね。

 資金の内容も問題

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http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/06/25/1359307_2_1.pdfより)

最後に資金の内容を確認してみます。

運営費交付金とは政府から大学に支給され、教員の人件費や研究設備などの財源になるものです。その額が減っていることは先日述べたとおりですが、代わりに外部資金が増えています。

外部資金が増えることの問題として、外部資金獲得のための書類準備に時間が割かれる分研究に割ける時間が減ってしまうこと、資金を獲得できるかどうかが確実でないため安定して職員を雇用できなくなることなどが挙げられます。

おわりに

政府支出がどんどん減っているというイメージが先行してしまっていると思い、今回の記事を書きました。

問題は主要先進国と比較しても政府支出割合がずっと少ないこと、安定的な予算が減っており競争的資金の獲得をせざるを得ないことです。

まずは現状をしっかり把握することが重要です。それを踏まえた上で要望を出さないと揚げ足を取られて終わってしまうので、用心していきたいと思います。