市中銀行は無限にお金を貸し出せる?!~預金をゼロから作り出す~

前回はお金の発行における日本銀行の役割について述べました。

今回はより我々の生活に密着している市中銀行の役割について述べてみます。

 

現金と預金の関係

 まずは現金預金について整理します。この2つの違いについて考えてみましょう。まず現金ですが、日本銀行が発行する紙幣と、日本国政府が発行する硬貨に分けられます。一方で、預金といえば銀行に預けているお金というのが一般的なイメージかと思います。ここで1点重要なことをお伝えします。預金とは市中銀行が発行できるお金であるということです。

 実際、現在出回っている日本銀行券は約107兆円ですが、預金総額は2017年時点で1000兆円を超えています。増えた分はどこから生まれたかというと市中銀行が発行したものです。さてどのように市中銀行がお金を発行できるのか、解説していきたいと思います。ここから先は基本的にお金という言葉を「現金」と「預金」で使い分けていき、現金や預金をまとめたものを「お金」と表現したいと思います。

銀行は手元の現金以上の額の貸し出しができる?

 銀行の大きな役割の1つである貸し出しという業務について、巷で広まっている誤解について説明します。多くの人は誤解している点です(私も初めは信じられませんでした)。銀行は貸し出しの際にどこかから現金を調達しているわけではなく、手元にある現金以上の額の貸し出しができるという点です。ご存知でしたか?

 銀行は貸し出しの際にどこかから現金を調達してきて貸し出すわけではありません。銀行で実際にローンを組んだことのある方はわかるかもしれませんが、例えばAさんが銀行から100万円借りた際に銀行での手続きは、預金通帳に100万の数字を記載する、ただこれだけなのです。こうすればAさんの預金が100万円増えますよね。ちなみに銀行のバランスシート上は資産として「貸出金100万円」、負債として「預金100万円」計上することになります(実際に計上するのは決算の時)。ここで重要な点は、手元に現金がなかったとしても、預金の発行ができてしまうということです。

銀行は貸し出すときに預金を発行できる

 このような市中銀行による預金の発行を信用創造といいます。英語ではmoney creationすなわち貨幣創造なのですが、なぜか信用創造というわかりにくい言葉になっています。実際に市中銀行が行っていることは預金という貨幣の創造なのです。

 世の中の預金は基本的に貸し出しの時に発行されたものです。元をたどれば誰かの負債ということです。

銀行は無限に預金を貸し出せるの?

 理論上は無限に預金を貸し出すことができますが、それをするとみんなが預金をおろそうとした(預金と現金を交換しようとした)ときに銀行に手持ちの現金がないという事態になりかねません。そのための規制があるのでご紹介します。

 1つが預金準備率というものです。銀行は手元にある現金を日銀当座預金に預けています。ちなみに日銀当座預金は、厳密には日本銀行が発行しているお金の一種で、現金とほぼ同義です。その日銀当座預金の、預金総額に対する割合を一定以上にしなさいという制度です。たとえば預金準備率1%であった場合を考えます。A銀行の預金の総額(全顧客の預金残高の合計)が1億円であった場合には、最低限その1%である100万円を日銀当座預金に預けておかないといけないという制度です。逆に考えると、理論上は100万円の日銀当座預金を預かれば、9900万円をだれかに貸し出すことも可能ということになります。もちろんそんなことをすれば預金の引き出しに対応できなくなりますが。

 加えてバーゼル合意(BIS基準、バーゼル基準などともいわれます)という世界的な基準があります。その基準には自己資本比率を8%以上にしなければならないというものが含まれています。自己資本比率とは(資産-負債)/資産のことですが、預金の貸し出しは資産と負債を同額ずつ増やしますので、貸し出しが増えると自己資本比率が下がります。このバーゼル合意も貸し出しすなわち預金を増やす障害となります。

市中銀行がお金の一種である預金を発行しても大丈夫?

 市中銀行がお金を発行しているというのが不思議な感じがするかもしれません。なぜそんなことが成り立つかといえば、我々の生活を考えてみればわかるかもしれません。給料をもらう際に今どき手渡しのところはほとんどないでしょう。電気、ガス、通信料なども銀行引き落としやクレジットカードで支払っている方が多いのではないでしょうか。日常生活で現金が登場する場面は実はそこまで多くありません。預金のやり取りで成り立ってしまうことも多いため、それほど多くの現金は必要ないというわけです。

発行された預金はどうなる?

 さて100万円を借りたAさんの話に戻ります。Aさんがその100万円をつかう際にどのような動きになるかを考えてみます。AさんがBさんに100万円を支払う場合を考えます。

 Bさんが現金で支払ってほしいといった場合は、ATMや窓口で預金を引き出す(預金と現金を交換する)必要があります。そこで初めて銀行の手元にある現金が動きます。引き出した結果、銀行のバランスシートでは資産である「現金(または日銀当座預金)」が100万円減り、負債である「預金」も100万円減ります。

 Bさんが口座に振り込んでくれと言った場合は、2パターンに分かれます。同一銀行の口座の場合と、銀行が異なる場合です。同一銀行の場合のお金の動きは簡単です。Aさんの預金口座の数字を100万円減らして、Bさんの預金口座の数字を100万円増やすだけです。バランスシートの動きはないと考えていいかと思います。違う銀行であれば銀行間の現金(または日銀当座預金)のやり取りが必要です。実際には日銀当座預金でやり取りするようです。

まとめ

 以上、市中銀行の役割について解説しました。世の中のお金について少し違った見方を皆さんと共有できれば幸いです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。