高齢者に不顕性感染が多いのかも
ダイヤモンドプリンセスでは3711人の乗客・乗員全員について検査をしています。この点から非常に貴重なデータであることが言えます。日本は重症者と濃厚接触者を中心に検査していますので、全数データを得ることは事実上不可能です。
そのダイヤモンドプリンセスのデータについて、有症状例と無症状例の数が公開されています。これを眺めていて気になったことがあります。以下がそのデータです。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9422-covid-dp-2.html
これをグラフにしてみました。
数が少ない20歳未満と90歳以上を省いて、割合で示すと以下のような感じです。
これを見ると若い人が感染した場合は症状が出ることが多く、不顕性感染(症状のない感染)は50歳代以上に多いことがわかります(統計学的な検定まではしていません)。一般論で高齢の方ほど症状が出にくいことは他の疾患でもあることなので、うなずけるデータではあります。
もし不顕性感染者が人に移すのであれば、より気を付けるべきは高齢者なのかもしれません。もちろん若年者も不顕性感染がありうるので、自分が常に人に移す可能性を考慮して行動をすることが、感染拡大を防ぐことにつながると思います。
「新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 診療所・病院のプライマリ・ケア 初期診療の⼿引き」
日本プライマリ・ケア連合学会のホームページに掲載されました。
COVID-19にヒドロキシクロロキンが有望かも
COVID-19の治療に関する話題です。
ヒドロキシクロロキンはもともとマラリアの薬ですが、近年では全身性エリテマトーデスという難病の治療にも使われるようになっており、日本国内で使用可能な薬です。COVID-19に有効である可能性が指摘されていましたが、実際に使用した2例の報告が出ています。
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200312_5.pdf
1例目はロピナビル・リトナビルとの併用、2例目はロピナビル・リトナビルが副作用で継続できなかった症例に投与して、いずれも効果があったようです。1例目についてはロピナビル・リトナビルのほうが効いた可能性もあります。また両症例ともに自然経過で改善した可能性もゼロではありません。
先日のシクレソニド同様に、現時点で有効だと証明されたわけではありませんが、臨床試験の結果を待ちたいところです。
北海道のエピカーブを描いてみた
感染症の流行状況を調べるのにエピカーブというものがあります。発症日に基づいて患者数をグラフ化したものです。報告日ベースのグラフはあるのですが、発症日ベースのグラフが見当たらないので、昨日までに北海道で報告されている98例の発症日を北海道庁ホームページから調べてグラフ化してみました。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/hasseijoukyou.htm
北海道を選んだ理由は、都道府県でいちばん報告患者数が多かったからです。加えて緊急事態宣言がなされたこともその理由です。
青が発症日ベースの患者数の推移です(3例ほど発症日が読み取れない症例がいましたので省いています)。オレンジが報告日ベースであり、普段報道で目にするものです。
発症日のピークと報告日のピークには1-2週間のずれがあることには注意が必要です。一般に発症から診断にはタイムラグがあるので、流行途中にエピカーブを描くと減少傾向に見えてしまいます。青グラフが現時点で減少傾向にあることは、必ずしも新規患者数が減少傾向にあることを意味しませんので、そこは注意してください。
北海道は2月28日に緊急事態宣言を出しました。その効果がどうなるのか注視したいところです。
本当はいろいろ考察したかったのですが、グラフを作ってみて、流行が今後どうなるか判断するにはまだ時期尚早であることに気づきました。時間があればもう少し日がたってから見てみようと思います。
医療機関における新型コロナウイルスへの対応ガイド第2版
先日、医療機関における新型コロナウイルスへの対応ガイドを紹介しました。
3月2日に第2版ができていたのでご紹介します。
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide2.pdf
目新しい情報はなかったのですが、コンパクトに要点がまとまっておりわかりやすいと思います。医療従事者向けの情報ではありますが、個人的に非医療従事者の方に見てほしいのは以下です。
これを守ることができれば感染リスクをぐっと下げることができます。ありがちな間違いとしてはマスクで鼻を覆っていない、マスクの外側を手で触ってしまうなどです。マスクの外側に触らざるを得ない場合はその後にきちんと手を消毒しましょう。
本日は以上です。
マスク転売に国民生活安定緊急措置法が適用される見込み
先日、マスク転売について以下の記事を書きましたが、どうやら別の法律が適用されるようです。
その名も「国民生活安定緊急措置法」です。条文のうち重要そうなところをチェックしてみました。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=348AC0000000121
第二十六条 物価が著しく高騰し又は高騰するおそれがある場合において、生活関連物資等の供給が著しく不足し、かつ、その需給の均衡を回復することが相当の期間極めて困難であることにより、国民生活の安定又は国民経済の円滑な運営に重大な支障が生じ又は生ずるおそれがあると認められるときは、別に法律の定めがある場合を除き、当該生活関連物資等を政令で指定し、政令で、当該生活関連物資等の割当て若しくは配給又は当該生活関連物資等の使用若しくは譲渡若しくは譲受の制限若しくは禁止に関し必要な事項を定めることができる。
第三十七条 第二十六条第一項の規定に基づく政令には、その政令若しくはこれに基づく命令の規定又はこれらに基づく処分に違反した者を五年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨の規定及び法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関して当該違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する旨の規定を設けることができる。
政令で指定した「生活関連物資等」を平たく言えば転売禁止にできるということのようです。しかも5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金ということで、先日ご紹介した「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」の3年以下の懲役または100万円以下の罰金よりも重い罰則となっています。今回のニュースを受けてメルカリなどでのマスク転売も少し減ったような気がします。もう少し早くしてほしかったのが本音ですが、それでもやらないよりはやったほうがいいです。必要とする人にマスクがいきわたるようになってほしいものです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にシクレソニドが有望かも
中国・武漢発祥のCOVID-19ですが、興味深い報告が出ました。喘息の治療薬であるシクレソニド(商品名オルベスコ🄬)が有効であったというものです。
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200302_02.pdf
一般に薬が有効かどうかというのは、大規模な臨床試験によって判断されます。今回の報告は3例のみですので、現時点で断定することはできません。それでもこの薬には期待せざるを得ません。喘息患者さんへの使用経験が豊富ですし、吸入薬ですので全身への副作用がそこまで出ない薬です。そしてファビピラビル(商品名アビガン🄬)同様、日本企業の薬です。
今回はこの報告について解説をしてみます。
まずなぜCOVID-19患者にシクレソニドを投与したのかです。
シクレソニドはもともと吸入ステロイド薬の1つで、気管支喘息の患者さんに用いられます。吸入することで気管支や肺に取り込まれ、活性体に代謝されて炎症を抑える薬です。一般にステロイド薬は炎症を抑える反面、免疫力を落とす懸念から感染のリスクを挙げると言われています。しかし、今回のシクレソニドは基礎実験で抗ウイルス効果が示されています。COVID-19治療で使われているロピナビル(カレトラ🄬の成分の一つ)と同等だったそうです。
では実際の効果がどうだったかを見てみます。すべてダイヤモンドプリンセス号に乗っていた方です。
1人目は酸素吸入が必要な肺炎でカレトラ🄬を投与されていました。ある程度の効果はあったものの完全には抑えられず、また下痢や肝障害といった副作用も出たためカレトラ🄬を中止しました。その後シクレソニドを投与したところ2日で熱が出なくなり、また酸素も必要なくなり、ウイルスも陰性になったとのことです。
2人目は徐々に悪化する肺炎に加えて下痢や食欲不振の症状もあったのですが、シクレソニド開始した翌日から下痢が改善して普通便になり、2日後には酸素も必要なくなったそうです。ウイルスは報告の時点ではまだ陽性のようです。
3人目は軽症の段階からシクレソニドを投与し、肺炎については一時酸素吸入が必要となったもののすぐに不要となりました。報告時点でウイルスはまだ陽性です。
3人目の方は自然経過なのか薬の効果があったのかなんとも言えませんが、1人目と2人目の方は経過から効果があった可能性が高いように思います。
シクレソニドは薬価も安く、一般に使われている喘息の薬です。不思議なことにシクレソニド以外の吸入ステロイドには抗ウイルス効果が確認できていないようで、この薬特有の作用があるのかもしれません。
今後の報告に期待したいと思います。